しんやてんしょんでつらつらと
独立行政法人国立高等専門学校機構岐阜工業高等専門学校雄志寮生の朝は早い.1限の開始時刻は一般にAM.9:00であるといわれているが,彼はAM.8:58には既に目を覚ましていた.何食わぬ顔で人類の最難関といわれる"起床"をこなし身支度を整える.ここまでわずか3分.焦る素振りなどおろか,四年間欠かさずこなしてきた彼にとってこの程度は朝飯前であり,余裕の表情でその狭い空間を後にする.そして彼がいなくなってから22時間ほどたった頃だろうか,ようやく寮食は朝食を提供し始めるのであった.
人はそこを”モンキーパーク”と呼ぶー.
寮から教室へは軽く数kmはある.少数とは便利なものだ.しかしここでも焦ることはない.彼の頭脳では莫大な計算がなされており,この時点でもう間に合うことがわかっているからである.教室へ着くと時刻はAM.9:02.厳密には時計を斜めから見ているのでAM.9:01,いや,AM.9:00といったところか.今日の登校RTAもギネス世界記録である.
この日,彼は遅刻した.
ここで生活していると,よく"魔剤"という言葉を耳にする.これがその魔剤だ.
いいか,これが魔剤だ.よく覚えておけ.決して緑の爪痕を背負ったやつにはかかわっちゃいけねえ.”背中の傷は剣士の恥だ”と緑のやつも言ってただろう.そういうことだ.
だがそれよりも気を付けなければいけないやつがいる.そう,こいつが"落単"だ.AIB●みたいだろ.こいつは単位を貪り食って這いずり回る汚ねえやつだ.1つたりともやつに単位を渡すな.最悪の場合"留年"だ."留年"は異世界転生みたいなもんだ.普通は望んでそうすることはないが,転生して無双したけりゃこいつに13の単位を食わせるんだな.おすすめはしないぜ.1回死なないといけないなんてつらいだろう?
正午,昼食にバナナをむさぼる.彼は言う.
ここではみんなそうする.サルだから当たり前だろう.だが稀に自分は人間だと思い込むサルもいるらしいな,サルだという証拠を見せてやろう.これは昼食のバナナとある駐輪場の写真だ.原付二輪限定の駐輪場だったが自転車を止めるやつが後を絶たなかった.結果としてパーク側は急遽張り紙で対応したんだ.きっと漢字が読めなかったことが原因だと考えたんだろうな.もちろん何も変わらなかった.何せカタカナも読めないんだからな.パークの従業員もそろってサルだったってわけさ.
彼に友達はいない.
日も傾き始めたころ,すべての講義を終えると部活動へ向かう.彼はロボット研究会なるものに所属していた.今日も部室につくなり差し入れをいくらかつまむとそのまま帰路につく.あの日見たその部活の名前を彼はまだ知らない.
この部活について今わかっているのは,我々とは少し言語が異なるということくらいだろうか.
ここで少し寮の檻の説明をしよう.セキュリティ対策として,出入り口はデュアルノブ方式を採用している.CNC,3dプリンタ,安定化電源,オシロスコープさえあれば最低限生活に困ることはないだろう.
日が沈み,長い一日が終わろうとしていた.だがそれと同時に,長い夜は始まろうとしていた.サルはどうか知らないが,彼らは夜行性である.いや,昼の講義中に睡眠をとっている以上,夜行性にならざるを得ないのだ.課題など放置し,コンビニでアホみたいに高いものをアホみたいに買い込みむさぼる.体にも悪そうで非常によろしくないがおいしいものが体に悪いわけがない.悪そうに見えるだけだ.彼らもプラシーボ効果だけは知っているようだ.
だたし,楽しいことばかりではない.
パークでは定期テストごとに熾烈な戦いが繰り広げられる.学生が自給自足できる単位にも限界があるのだ.教員から単位をむしり取るしかない.通常は過去問に頼ることで単位を得る.しかし,その過去問が通用しない奇行種も存在する.傾向を変更してくるのだ.
〉教員
単位を取得して即退散とはとんだ腰抜けの集まりじゃのぉ電子制御工学科.
過去問が過去問...それも仕方ねェか.........!!
”先輩”は所詮...先の時代の”敗北者”じゃけェ...!!!
〉学生
はぁ...はぁ...
敗北者......?
こうした教員との激しい戦いに打ち勝ったもの,もしくは頭を地にこすりつけ泥水をすすり靴をなめ,試練に打ち勝ったもののみ,次の学年への進級が許される.進級に必要な単位が足りていない学生には後日電話が掛けられ,留年,つまり異世界転生のための”死の宣告”が行われる.
いやあ,長い一年だったぜ.ところで俺は単位の数え方を知らないんだ.落ちた科目数と単位って何が違うんだ?なんだって?1つの科目落とすと2単位落とすこともあるだって?
ひぃ,ふぅ,みぃ,
...今何時だい?...3時か.
みぃ,よぉ...じゅうに.
こりゃあめでてぇ進級したよ草
...おっと電話だ.
「......7 days......」